季節の生きもの観察手帖
−自然を楽しむ二十四節気・七十二候−


NPO法人自然観察大学/企画・編集
全国農村教育協会
2017年4月27日発行
A5判、224ページ
本体2,500円+税
自然観察大学からの紹介 http://www.sizenkansatu.jp/pbl/index_tcho.html
出版社からの紹介 http://www.zennokyo.co.jp/book/npo/tcho_0.html
読み物でも図鑑でもない、読者参加型のユニークな本
今、地球の温暖化が問題となっている。
過去100年間(1911〜2010年)で、地球の平均気温が、0.75℃上っているという。また、東京都心部の平均気温の上昇は、3.02℃にまで達している。ヒートアイランド(熱の島)現象である。
このため、都会の森では亜熱帯性のシュロが異常なまでに繁茂し、暖地性のマンリョウ、センリョウ、ムサシアブミなどが増加している。また、2002〜2003年頃より、今まで東京都内では見られなかったムラサキツバメ、ナガサキアゲハ、ツマグロヒョウモンなどのチョウ類の北上現象も見られるようになった。
また、生物季節にも変化が見られるようになった。これまでソメイヨシノの開花は4月上旬であったが、最近では3月中旬頃から開花することも稀ではない。一方、イロハモミジの紅葉は、以前は11月中旬頃であったが、今では12月に入らないと紅葉しない。全体的に春が早くなり、秋が遅くなるという傾向にある。
このように、近年の急激な季節変化が見られる時にタイムリーに出版されたのが「季節の生きもの観察手帖」ではないだろうか。
読み物でも図鑑でもない読者参加型のユニークな本といえよう。
本書は、二十四節気ごとの「おすすめ観察テーマ」、七十二候の「日々の観察記録」と「ミニ図鑑」から構成されている。
「おすすめ観察テーマ」は、自然観察大学の著名な講師陣により執筆されているので読み応えのある内容となっている。とくに唐沢学長のヒガンバナの開花の観察は圧巻である。あのお忙しい方が、4年間(私信では10年間継続しているという)ヒガンバナの開花時期は、外出もできず、100〜200の花序を毎日観察したという。その情熱は、まさに自然観察の真髄である。
「七十二候」の解説も興味深い。ふつう季節は春・夏・秋・冬の4つに区分されているが、生き物の営みは刻々と変わっているし、二十四節気でも追いつかないくらいである。七十二候は私たちの生活とも深くかかわっていることがよくわかる。
「日々の観察記録」には観察された生きものの年月日、場所などが書かれているので、読者の自然観察のヒントとして活用できるであろう。また植物、鳥類、小動物、虫、菌類など多様な生きものを扱っていることから本書の意図も伝わってくる。
「ミニ図鑑」には美しい姿や珍しい生態を撮られた写真が多い。ただし写真が小さいような気がした。初老の「もったいない族」としては、多くの空白があるので、もっと写真を大きくしたらと思ったりしたが、他のページとのバランスを考えるとやむを得ないのかもしれない。
最後に「観察記録のご提供」の所ところで、観察した年月日、場所、氏名を明記することが書かれているが、うっかりして“年”を書き忘れることがある。思い出してもなかなか出ないものである。念には年を忘れないように!
昔は昭和○○年と記してもピントときたが、平成以降になると混乱してくるし、さらに新しい年号が加わると複雑となる。年は西暦で統一したほうがよいかと、最近つくづく感じる次第である。
国立科学博物館附属自然教育園名誉研究員 矢野亮

この手帖を使ってみて(所感)
勉強とは、文化を承継するために人として必要なものである、と誰かが言っていました。将来のため、仕事のために人は学びます。
でもちょっと立ち止まってみませんか。
古来、人々は季節に対して、様々な表現を使って、生活を豊かに楽しんでいました。それは文学作品だけでなく、皆さん体験していると思います。例えば、子供の時、「啓蟄」という言葉を初めて知った時のちょっと大人になった気分、我が子の名前を付けるとき、その言葉の意味や由来を調べた時の高揚感…
文化というのはもっと身近にあると思います。この本はその入口へと導いてくれるはずです。
入口その1「子供と感じる自然」
・子供の視線になれるのが自然観察。
・子供の頃に家族に教えてもらった季節にまつわる日本の文化を、子や孫に話してあげましょう。
・小学校の受験で二十四節気や季節の植物に関するテストで植物に興味を持った方もいるはず。自分の発見を書き込めるのは面白く、1年間を通して子や孫と記録していけば、素晴らしい思い出の一冊になります。
入口その1「大人の自然観察」
・四季を感じる豊かな人生の入り口になります。
・興味を持っている人が虫を調べる、植物を調べる、鳥を調べるのは図鑑ですが、これは手帖なんです。手帖なんですが、仕事などのスケジュールの書き込みではなく、自分の周りの移り変わる自然の出来事や、出かけた先での情景を書き込んでみましょう。人生の価値についてちょっとだけ見方が変わるかもしれません。。
家族と自分の人生をちょっと豊かにする水先案内人、そんな本だと思います。
自然観察大学学生 川名聡
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