手賀沼の生態学2016
  手賀沼ブックレットNo.8


浅間茂・林紀男/著
たけしま出版会
2016年7月25日発行
A5判、94ページ
本体1,000円+税
 自然観察大学の副学長である浅間茂さんは、千葉県北西部にある手賀沼にほど近いところに住み、自宅のそばに「千葉生態系研究所」を名乗る研究室を構えている。手賀沼の自然と環境の課題に取り組んですでに40年を超える。
 この間に国内のみならず、遠くボルネオまで遠征すること数十回、地球規模の環境視点を磨いてきた。その経験を生かしながら地元手賀沼も見つめてきた。
 手賀沼の昔は美しい風景と豊富な生きものとが地域の人々のくらしを支えてきた。1940年代から50年代にかけて干拓事業が行われ、沼の水面は半分に縮小された。1960年代ごろから周辺の都市化が進み、沼の環境は急速に変化した。特に水質の悪化は著しく、1970年代からは日本の沼の水質ワースト1という汚名が長く続いた。水草や魚貝類などが減少あるいは消滅した。
 この状況を見続けてきた浅間さんは、手賀沼の環境と生物の実態を市民に広く知ってもらいたいと考え「手賀沼の生態学」(1989、崙書房)を出版し、警鐘を鳴らした。
 それから30年近く経ち、沼の水質改善をすべくいろいろな手がうたれた。手賀沼の環境も大きく変化した。果たしてそれが沼の改善に効果をもたらしているのか検証が必要である。前著はすでに絶版になっていたこともあり、現状をふまえた普及書をと浅間さんは考えた。
 今回は林紀男さんが著者に加わった。林さんは浅間さんが県立東葛飾高校で教鞭をとっていた時代の教え子である。長く千葉県立中央博物館の研究員として勤務している。単なる研究者ではなく、手賀沼をはじめ地域の自然に積極的に取り組み、市民の活動にも指導的な役割をしてきた。恩師浅間さんのいいところを受け継いだような、まさに「行動する研究者」といえよう。
 この「手賀沼の生態学2016」は「地域を楽しみ地域に生きる/手賀沼ブックレット」の1册としてつくられ、A5判94ページというコンパクトな形にまとめられている。
 まず手賀沼の生い立ちからその変遷を概説し、水質汚濁の原因を分析した。前著刊行以来沼を水質に大きな変化をもたらしたのが、北千葉導水事業という利根川の水を沼に引き込む事業である。これによってたしかに水質は向上したが、閉鎖的な生態系から利根川の支流へというべき転換をした。
 この本では、水生植物や水鳥の生活、沼周辺の生きものたちについて解説しているが、特に導水事業によって動植物にどのような影響をもたらしたかについて力を注いでいる。
 今回は林さんが専門とする植物プランクトン、動物プランクトンについてくわしい。また、最近の沼周辺の特定外来生物の増大の状況についても述べている。
 手賀沼の水質浄化については、長年にわたり市民も行政も努力してきた。わずかずつではあるがその成果もみられるようになった。そこへ導水事業という巨費を投じた事業が行われた。たしかに見た目水はきれいになり悪臭も消えた。反面沼の生態系は大きく変わった。市民の手賀沼への意識も変わっていくであろう。
 著者らはそれが真の沼の浄化につながるかどうか危惧するとともに、いくつかの提言も試みている。
自然観察大学名誉学長 岩瀬徹

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