新版 形とくらしの雑草図鑑
見分ける、身近な300種

岩瀬徹・飯島和子/著
全国農村教育協会
2016年5月20日発行
A5判 240ページ
本体2,500円+税
出版社からの紹介 http://www.zennokyo.co.jp/book/ykhb/kkzso.html
近頃はちょっとした雑草ブームのようだ。図鑑も数多く出ているが、それらは形態を重視したものがほとんどである。
この本はそれらとは少し違っている。形はもちろんのこと、植物の生き方にも自然に目を向けさせてくれるのだ。
「種の違い、生育環境の違いによって、植物の生き方が違ってきて、それが形に表れている」という立場で解説されている。「形とくらし」を考えることは、名前を知るだけよりも興味深いはずだ、というのである。
野外で植物を観察していると、何かと気なることが出てくる。本書にはそれらが的確な写真で示されている。かゆいところに手が届く本である。
本書は平成19年に出版された同名の本の新版である。新たな著者に、雑草群落の遷移を長年研究されてきた飯島氏が加わった。
岩瀬氏、飯島氏とも長い間雑草に深い愛情を注がれてきた方であり、雑草の生活を重視して調査してこられた方たちである。二人の観察眼がうまくコラボし、観察者によりわかりやすく情報を提供してくれる、素晴らしい本である。
改訂された主な点として、最近身近に見られるようになった帰化植物を中心に掲載を20種増やしている。
またAPGによる新分類を採用し、科の配列はなじみ深い旧分類で、科名は新分類で示している。科名が変更になったものには従来の科名も併記されており、調べやすい。
写真はより的確に表現されているものに差し替えられ、解説文もよりわかりやすく変更してある。例えばカタバミの種子散布のメカニズムを見てみよう。丁寧な観察から得られたことが、簡潔な文章と写真で示されている。
巻末には、雑草の生活型について丁寧に記述されている。これも新版で追加されたものだ。
生育環境が似た雑草は、系統分類的に異なっていても、類似した形態や生活をしている。この考えをまとめたのが生活型の概念である。
生活型によって、野外での調査に際し、生育環境を推測し他の環境との違いをまとめやすくなる。また一方で、種の違いを明らかにすることもできる。例えばカタバミとオッタチカタバミは形態が類似しているが、前者は匍匐型、後者は直立型である。
最近の本にはこのような生活型の考え方を見かけなくなっているが、本書には掲載種の生活型一覧がまとめられており、野外調査での活用に便利である。
野外の植物に興味を持ち始めた方や植生調査をする方には必携である。
自然観察大学講師 村田威夫
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