唐沢流
自然観察の愉しみ方
自然を見る目が一変する
唐沢孝一著
地人書館
2014年9月25日発行
四六判 200ページ
本体1,800円+税
出版社からの紹介 http://www.chijinshokan.co.jp/Books/ISBN978-4-8052-0878-6.htm
 “愉しむ”は“楽しむ”と同じ意味だが、さらに“喜ぶ”という意味も含まれる、と古い辞書にあった。自然観察を楽しみ、喜ぶということなら、この本のねらいにぴったりの書名であろう。
 唐沢さんはいうまでもなく鳥観察の第一人者であり、これまで数多くの名著を出されている。しかし決して鳥オンリーの観察者ではない。鳥を入り口にして自然のしくみを見つめ、さまざまな驚きを発見しそれを記録する。だからクモありトンボありカエルあり、さらに植物ありと、目は生きもの全体に及ぶ。さらに驚くのはそれがつぎつぎと洗練された文章の形になっていくことだ。
 鳥の専門月刊誌「BIRDER」に2006年から連載を始め100回に及んだというからそれ自体もすごいが、その中から25篇を精選して構成したのが本書である。この連載を始めるに当たって唐沢さんは、鳥の雑誌ではあるが狭い鳥情報だけでなく広く生きもののくらしに目を向けた頁にしたいという希望を示し、ほぼその流れに沿ったものになったという。
 本書の頁を追うと、その大半が特殊な場面ではなく誰もがその気になれば観察できそうなものである。そしてその気を起こさせてくれるのが本書といえる。たとえば、雑木林でのヤマガラの行動から木の虫こぶを観察し、虫こぶをつくるアブラムシやタマバチなどのくらしへと広がる。ヤマガラの姿を見ておしまいというのではない。
 余分なことだが、私は子どものころ覚えた「ヤマガラ太夫」の歌を思い出した。
 房州鴨川での漁港の鳥観察もおもしろい。鳥の目からすれば漁港は魚の豊富な磯のようなところという。イソシギ、イソヒヨドリ、トビ、カモメなど磯の鳥が出てくるのは当然だが、話しはイワシ、スズキ、ウツボなどとのドラマに展開する。カイツブリ、カワセミなどが海面にもぐるという常識外のことにも出会う。鴨川といわず他の漁港へ行ったときもそんな目をもったら面白いと思った。そんな25篇である。
  私たちは唐沢さんとともに自然観察大学を立ち上げて13年目になる。自然観察は単に多くの名前を覚えたり珍しいものを追ったりすることではない。自然観察のねらいを定め少しでもそれに近づけるようにと動いてきた。そのねらいとは、自然観察大学12年史にも記されているが、本書を読んでもらえればいっそう理解していただけることと思う。
 興味深い写真が多く盛られている。やむを得ないこととは思うが、印刷上もう少し鮮明にできたらと欲張った望みももった。
NPO法人自然観察大学名誉学長 岩瀬 徹

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