全農教 観察と発見シリーズ
昆虫博士入門
大野正男/監修
山崎秀雄/著
池田二三高・川村満・高井幹夫/写真
全国農村教育協会
2014年7月26日発行
B5判 232ページ
本体2750円+税
出版社からの紹介 http://www.zennokyo.co.jp/book//hakase/Dr_kon.html
昆虫観察の視点が豊かになり、ますます面白くなる本
 自然観察大学講師でおなじみの山崎先生が、ついに『昆虫博士入門』を出版された。「ついに」と記したのは、企画から出版までに十数年の歳月を要したことにある。構想を練り、写真・資料を集め、さらに構想を練り直しての執筆・編集作業は並大抵ではなかったと思われる。それだけに、読み応え、見応えのある大作である。
 本書の特徴は、第一章から第四章の章立てによく現れている。
 第一章「昆虫の体の構造」では、昆虫の形の面白さ(形の多様性)に注目している。昆虫の顔、翅、脚、眼、触角などのクローズアップ写真をみながら、構造と機能の関係を理解することができる。昆虫の翅一つ取り上げてみても、そのはたらきは飛翔、発音、防御、種の雌雄認識など多岐にわたる。
 第二章「昆虫のくらし」では、くらしの面白さ(くらしの多様性)を取り上げている。卵から幼虫、蛹、成虫へと劇的に形が変化する「変態」は、昆虫のくらしと深く結びついている。昆虫の食物も、繁殖方法も、種ごとの独自性があり、それがまた昆虫を観察する楽しみでもある。
 第三章「いろいろな昆虫を見る」では、多様性の面白さ(種の多様性)に着目し、目立たない種や嫌われものといわれる昆虫にも温かい眼差しを向け、昆虫界全体が理解できるよう構成されている。
 第四章「昆虫博士をめざして」は、やや付録的な扱いになっているが、観察や採集の方法、ツバメの糞分析の事例などが紹介されている。
 昆虫は、環境や食物のわずかな質の違いに応じて多様に種分化し、多様化することによって繁栄してきたグループである。その多様な形、はたらき、習性や生態の面白さに魅了され虫の虜になった人は世界中にいる。その中の一人ファーブル(J.H.Fabre、1823-1915)は、『昆虫記』の中で「採集して殺した標本ではなく、生きた昆虫そのものを観察しなさい」「何をどう観察するかの視点が何よりも重要である」と説いている。『昆虫博士入門』には、生きた昆虫を観察するための視点がいたるところにちりばめられている。自然観察大学主催の野外観察会で、山崎先生が実際に解説されたシーンも随所に登場する。また、昆虫は小さいがために観察しにくいこともあるが、本書では観察のポイントを大きく拡大し、鮮明な写真を用いて解説しているので初心者でもわかりやすい。
 この一冊で、昆虫観察の視点が豊かになり自然観察がますます面白くなってくるにちがいない。
 NPO法人自然観察大学学長 唐沢孝一
昆虫全体のことがわかる入門書
 なんという本だろう。図鑑ではないし、ガイドブックとも違う。
 書名の通りの入門書なのだろうが、今までにこういう本は見たことがない。
 ただこの本を見ていけば、昆虫全体のことが解るはずである。
 まず体の構造から始まり次にその各部位、口、触角、脚・・・ と続いていく。美しい写真を見ながらの説明が丁寧で解りやすい。
 昆虫というものは誰でも少しは関わっているものだ。興味が無い人でも、蚊、ハエ、クワガタ、カブトムシ位は誰でも知っている。ただそれがどういう環境で育ち、どうやって生活し、どうやって子孫を残してきたかを知る人は少ない。この本を見ていくと自然に昆虫とはどういうものか、どんな種類がいるのか、どんな生活をしているのかが解るはずだ。かと言ってこの本は、ごく一般的な虫だけを取り上げている訳ではない。ネジレバネ、グンバイムシ、チャタテムシ等あまり一般的でない昆虫にもちゃんとスポットが当てられている。
 この本を使えばどんな虫の仲間かということが解ってくる。これが大事なことで、いきなり細かな昆虫の種名を知ろうというのは、多様な昆虫界ではけっこう難しい話なのである。どんな虫の仲間かが解れば、あとは専門書でゆっくり調べることができる。
 昆虫全体を見渡すには、最適な一冊と言うことができるだろう。
 あえて希望を言うなら、普通の図鑑的要素もほしかったところだが。
NPO法人自然観察大学会員 荻原健二

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