2018年  テーマ別観察会
昆虫探検ウオークと"形とくらし"観察
6月3日(日)
場所:見沼自然公園
(埼玉県さいたま市)
主催:NPO法人自然観察大学

担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
写真提供者ならびに出典はそれぞれに記してあります。本レポートおよび本HPの写真などの無断転載はお断りいたします。

見沼自然公園(現地案内板より)。
公園の南西を加田屋川、北東を見沼代用水が流れる。
公園の詳しい紹介は下記サイトへ
<さいたま公園ナビ>
http://blog.sgp.or.jp/findpark/midori/minuma_shizen.shtml
<公園へ行こう!>
http://www.go2park.net/parks/minuma.htm
さわやかな天候のもと、参加者、講師、オブザーバー(担当外講師)ら総勢30名。
担当講師は山崎秀雄先生と平井一男先生のお二人で、交替で話をしていただきました。
昆虫を捕まえて、手にとってくわしく観察するという観察会。自然観察大学では、はじめての試みです。当日のようすをご紹介します。(本レポートでは、構成上、話が前後し、また一部を割愛させていただいています)
はじめに平井先生から見沼田んぼについての説明があり、山崎先生から捕虫網の使い方の実演を見せていただきました。みんなで捕虫網をもっていざ出発です。
※ つかまえた昆虫は観察後にすべて現地で放しました。
きのこを食べるモンキゴミムシダマシ(山崎)
並行して流れる加田屋川に沿って公園の境界近くを進むと、木陰のシラカシの伐採木が置いてあり、きのこ(種名不詳)が生えていました。そこに多数のモンキゴミムシダマシ成虫がいます。
伐採木のきのこを食べるモンキゴミムシダマシ(写真:石井秀夫)
モンキゴミムシダマシ「昆虫博士入門」より)
モンキゴミムシダマシは幼虫・成虫ともにきのこを食べます。ゴミムシダマシの仲間にはきのこを食べるグループがあります。
ここは草地ですが、木陰もできるのでこのようなところにも生息しているのでしょう。
名前は「紋黄」ですが、斑紋は赤色のものが多いようです。
ウリハムシ類のトレンチ行動(平井)
加田屋川沿いの草地にアレチウリがあり、葉にはところどころに直径1cmほどの穴が開いています。
この穴の犯人はクロウリハムシとウリハムシです。カボチャやキュウリなどウリ類の葉を食べます。
葉の表面を丸く溝掘りをするように噛み切っていました。その摂食行動はトレンチ行動と言われます。
カラスウリの葉のウリハムシ類による食痕(「昆虫博士入門」より)
クロウリハムシのトレンチ行動(自然観察大学ブログ「クロウリハムシの食事」より)
ウリハムシのトレンチ行動(自然観察大学ブログ「ウリハムシの円い食痕」より)
ウリハムシに円く摂食されたサトイモの葉(写真:平井一男)
ウリハムシ類は溝に囲まれて萎れた内側部分を摂食します。
囲まれた部分が萎れて柔らかくなるのを待っているのか、葉脈から不要成分が移入するのを阻止してから摂食するのかは分かりません。不思議な摂食行動です。
カボチャなどのウリ科植物のほか、サトイモの葉で同じような摂食様式を見たことがあります。
ヒメギスがモンシロチョウを食べる(山崎)
加田屋川沿いの草地でアブラナ科植物に飛来したモンシロチョウ成虫を捕らえた。
同じ草はらでヒメギス幼虫を捕らえ同じ虫かごに入れておくと、あとになってヒメギスがモンシロチョウを食べ始めました。
ヒメギスは河原や木陰などの湿潤な草原を好むバッタの仲間ですが、肉食性が強く、ほかの昆虫を捕らえて食べます。
ヒメギスの前脚に注目。前脚が長く、またとげが長いのは捕獲用と考えられる。(写真:山崎秀雄)
コバネイナゴの前脚とくらべる。こちらは前脚が短く、とげも小さい。(写真:山崎秀雄)
前脚をよく見てみましょう。とげがありますね。動いている虫を捕まえる捕食性の昆虫は、脚にとげがあります。トンボなどもそうですね。
イナゴ類など、植物食のバッタの前脚とくらべると、違いが分かります。
トホシクビボソハムシの観察(平井)
見沼代用水沿いの斜面に自生しているクコ。葉がぼろぼろに食べられていました。トホシクビボソハムシの食べた痕です。時期的に少し遅いこともあって数は少ないですが、成虫と幼虫が見られます。
成虫の上翅(背中)に10個の黒い斑紋があるので十星と名付けられたらしいのですが、黒い斑紋のない成虫もいます。ここで見られるのはほとんどが無紋のようです。
幼虫は自分の排出した糞を背負っています。そのため、異名でクコドロオイムシともいわれます。
この泥(糞)は保湿効果を狙っていると思われます。乾燥を嫌うので、今年のように雨の少ない年には発生が少なく、クコの被害も少ないようです。
ぼろぼろに食べられたクコ(写真:平井一男)
トホシクビボソハムシ。左から斑紋のある成虫、斑紋のない成虫、泥(糞)を背負った幼虫。(自然観察大学ブログ「トホシクビボソハムシで思う」より)
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ピットフォールトラップ(平井)
これは徘徊性の歩行虫を落とし穴に落とす捕獲方法です。
720mlほどの透明カップを土中に埋めて歩行虫を落とすピットフォールトラップを設置します。数日前に仕掛けておきました。
さっそく中を見てみましょう。
トラップを開くときは、みんなワクワク、ドキドキ。(写真:大野透)
トラップの中にはオサムシ・ゴミムシ類と、ダンゴムシとクモ。ほかにヒラタシデムシの成虫・幼虫も多数捕獲できた。(写真:平井一男)
カップを二重にして埋め込む。(写真:平井一男)
ふたをかぶせ、針金で固定する。(写真:平井一男)
トラップはふつう、地域の定点調査などに使用します。
仕掛けを紹介しましょう。
大き目のカップと、その内側に入るやや小さいカップを重ねて埋めます。
二重にするのは、内側のカップだけを効率よく回収するためです。トラップを多数設置したときに、落ちた昆虫を次々と別容器に移して、効率的に採集することができます。外側のカップはカップ周囲の土が崩れるのを防ぎます。
カップの上面(ふち)は地面と同じ高さになるように埋めて、数日間放置し、徘徊性生物が落ちるのを待ちます。トラップ内には餌や誘引物質を入れる場合もありますが、餌なしでも十分捕獲できます。カップ上のふたは雨よけです。針金でしっかり地面に固定し、風雨や鳥類、小動物に壊されないようにします。
木々に囲まれ草の茂る池は水生昆虫には絶好の住み家。(写真:大野透)
トンボの脚に注目(山崎)
この池ではいろいろなトンボを確認できます。
アジアイトトンボ、アオモンイトトンボ、ハグロトンボ、ウチワヤンマ、ギンヤンマ、シオカラトンボ、ショウジョウトンボ、コシアキトンボ、チョウトンボ。
アオヤンマを捕まえた人もいました。
ここはトンボの宝庫のようでした。
トンボを捕まえると、翅の力がとても強いのがわかります。
注目してもらいたいのは脚です。それもとげだらけの脚をしています。
トンボは空中で飛翔しながら獲物を捕らえるためと思われます。
アジアイトトンボ。トゲだらけの脚、ちょっとやんちゃそうな顔。捕食者であることがわかる。(写真:大野透)
ノシメトンボの脚。(「昆虫博士入門」より)
キバラヘリカメムシの観察(平井)
マユミが若い果実をつけていますね。マユミはキバラヘリカメムシが好む木です。この時期は成虫が産卵のために飛来していると思います。
みんなで探し始めると、「いた!」「アッ、ここにもいます」
ちょっと少なめだが、1本のマユミの木に7〜8個体の成虫を見つけた。
交尾するものもいた。
キバラヘリカメムシ(ヘリカメムシ科)は、背面は黒褐色ですが、腹部の黄色が目立ちますね。
交尾しているものを見ると、1匹はスレンダーな個体、他方はやや幅広で一回り大き目です。
大きい方は黄色い腹部もやや広めで目立ちます。
スレンダーな方が雄、幅広の方が雌です。
近づくと、ほのかに甘いにおいが漂いませんか?
青リンゴのにおいという人がいますが、どうですか?
後から強烈な刺激臭が鼻を突いた。
マユミの果実上で交尾をするキバラヘリカメムシ。(写真:平井一男)
キバラヘリカメムシの名前のとおり腹面全体が黄色い。(自然観察大学ブログ「カメムシの口器-4」より)
キバラヘリカメムシが飛翔する瞬間。前翅を開いて後翅を伸ばし羽ばたき飛翔する。(写真:平井一男)
展翅したキバラヘリカメムシ。前翅の前半が硬くさや状になる。後翅は柔らかい。(写真:平井一男)
カメムシの仲間は、成虫の前翅(上翅)の半分が硬くなっています。あと半分は半透明の薄い膜状の翅です。それでカメムシ目を半翅目(はんしもく)ともいいます。
タケウチトゲアワフキの観察
この公園のシナノキでは毎年タケウチトゲアワフキが観察できるそうです。
シナノキはボダイジュの仲間で、タケウチトゲアワフキの食樹。この日のシナノキはちょうど開花を始めたころでした。
羽化したタケウチトゲアワフキの成虫は4月末から5月初めに見られますが、観察当日もまだ少数の成虫が観察できました。
ほとんどの方がはじめて見る昆虫だったようで、その不思議な形に興味津々。
シナノキの前年の枝では、タケウチトゲアワフキの前年の営巣のあと(筒)も観察できました。
自然観察大学の学生である石井秀夫さんは、この公園でタケウチトゲアワフキを詳しく継続して観察しておられます。以下に石井さんの観察記録を紹介させていただきます。(写真もすべてご本人の撮影)
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タケウチトゲアワフキ その不思議な形と生活
NPO法人自然観察大学 石井秀夫
タケウチトゲアワフキというセミの仲間(カメムシ目トゲアワフキムシ科)が4月下旬から5月下旬頃にかけて、見沼自然公園のシナノキで観察できます。
タケウチトゲアワフキは、体長8mm程度(翅端まで)で、背中に長いとげが一本生えています。捕まえようとするとピョンと跳ねたり、飛び去ったりします。
幼虫はシナノキなどの枝先に石灰質の筒状の巣を作り、その中で、樹液を吸って生活しています。
埼玉県では秩父山地の一部に限って生息が確認されており、準絶滅危惧1型とされています(埼玉県レッドデータブック動物編2018(第4版))。見沼自然公園の個体群は、自然分布とは異なり公園にシナノキ科の樹木を植栽した際に移入されたものと考えられます。
羽化のようすが見たいと思い、2018年4月下旬に室内で観察を行って確かめましたので紹介します。
なお、どのように産卵し、生まれ、巣を作るのかなど、まだまだ確認したいことがたくさんあります。皆さんも身近な昆虫の生活史や植物との関係を観察してみませんか。
タケウチトゲアワフキ成虫。(2016年5月2日 見沼自然公園)
タケウチトゲアワフキ腹側と特徴ある口器。(2015年5月15日 見沼自然公園)
シナノキの花。(2015年6月12日 見沼自然公園)
タケウチトゲアワフキの交尾。(2016年5月2日 見沼自然公園)
幼虫が筒状の巣の中でシナノキの樹液を吸う。水滴が出ているのは幼虫がいる証拠。
幼虫が羽化のため巣からでる時は泡を出す。アワフキムシという名前を実感できる。
羽化のため巣から出た幼虫。
幼虫の頭から背の部分が割れ、頭や胴体が出る。(脱皮開始後約7分)
尻を残して脱皮。尻は抜けきっていないが、翅が伸びてきた。(脱皮開始後約21分)
体色が徐々に黒くなってくる。(脱皮開始後約1時間50分)
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シナノキは山地性の樹木で、公園造成時にシナノキの移植に伴って移入してきたと思われます。
1994(平成6)年の公園完成以来、シナノキとタケウチトゲアワフキは4半世紀生き続けていると推測されます。
なお、タケウチトゲアワフキは自然観察大学ブログでも紹介しています。
https://sizenkan.exblog.jp/26764251/
"形とくらし"の観察
昼食をはさんで、昆虫のからだの構造を観察し、そのくらしを考えました。
ゲンゴロウの脚の秘密や、バッタのジャンプの秘密などです。
なお、一部の内容は上記観察会レポートの中に組み込んでいます。
用意いただいた標本の一部。(標本と写真:山崎秀雄)
ルーペで標本を見て細部の構造を知る。
何やら悩ましそうなようす。
ちょっと話の内容が難しかったかも…
(写真:榊映一)
野外観察では予定外のゲスト(生物)が多く登場するのが常です。しかし、この日は自然観察大学史上まれに見る「行き当たりばったり」でした。進行役は疲れ果ててしまいましたが、みなさんはそれなりに楽しんでいただけたようで、なによりでした。
参加いただいたみなさん。講師の先生方、ありがとうございました。
(レポートまとめ 事務局O)

今回の観察会は、山崎秀雄先生が執筆された「昆虫博士入門」(全農教)を土台としています。
以下に、参加者のみなさんからいただいた本書に関するご感想の一部を紹介させていただきます。
* 昆虫の生活や形などについて興味深い話題がでていて勉強になります。
* 昆虫の観察にたいへん役立ちます。
* この観察会に参加して、奥の深い本だと感じました。読み込みが足りなかったようです。(反省)
* 素晴らしい本だと思います。第三章(いろいろな昆虫を見る)だけでも楽しいですが、第一章(昆虫のからだの構造)、第二章(昆虫のくらし)、第四章(昆虫博士をめざして)が凄いですね。
* 写真が見やすくて初心者にもわかりやすいが、野外に持っていくにはちょっと重たい。

2018年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告 テーマ別観察会
シダ植物観察会
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