2009年  自然観察大学 第1回
2009年5月17日(日)
場所:我孫子市岡発戸
淡緑の新芽が大分見え始めた2009年5月17日(日)今年も自然観察大学が、我孫子市岡発戸・都部谷津の谷津ミュージアムにて開催されました。
三年ぶりの岡発戸での観察会、第一回目はあいにくの雨模様の天気でしたが、たくさんの方々に参加していただくことができました。
当日のようすをレポートで紹介させていただきます。
観察会の様子 観察会の様子

当日に話題になった生き物のリスト

植物
・草本
ウワバミソウ
オオバコ
オオブタクサ
オヤブジラミ
カントウタンポポ
キンラン
ショウブ
セイヨウタンポポ
セリバヒエンソウ
マムシグサ
・木本
アカガシ
シラカシ
シロダモ
スダジイ
ニガキ
ニワトコ
シダ植物
ゼンマイ
ベニシダ
デンジソウ
トウゴクシダ
ヤマイタチシダ
 

 

昆虫
エゴツルクビオトシブミ
キゴシジガバチの巣
クリタマバチの虫コブ
コカマキリの卵のう
コナライクビチョッキリ
セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ
ハナウドチビクダアブラムシ(オヤブジラミ)
ホリニワトコアブラムシ
ヤマトシリアゲ
ヨコヅナサシガメ
クモ
オオヒメグモ
クサグモ
コクサグモ
ゴミグモ
シロカネイソウロウグモ
ウグイス
キジ
ツバメ
カエル
シュレーゲルアオガエル、ニホンアマガエル、トウキョウダルマガエル、ウシガエル、ニホンアカガエルなど
その他
ヤマカガシ
カタツムリ類(ヒダリマキマイマイなど)
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岡発戸・都部谷津の自然
「谷津」とは、台地に谷が入り込み浅い浸食谷の周囲に斜面林が接する集水域のことをいうそうです。その低湿地部は「谷津田」と呼ばれ水田として利用されるだけでなく、様々な生き物が暮らしている豊かな自然があります。湿地とそれを囲む斜面林には、そういった環境にしかいない生き物も観察できる貴重な場所です。
観察会を始める前に、今年度の観察会を後援いただいている我孫子市の方々から谷津ミュージアム活動の紹介をしていただきました(写真−1)。谷津守人の尽力もあって我孫子市では2002年から岡発戸・都部谷津地区の谷津36.7ヘクタールを丸ごと保全しているそうです
緑あざやかな斜面林 緑あざやかな斜面林
緑あざやかな斜面林
 
我孫子市役所の方のお話 我孫子市役所の方のお話
(写真−1)我孫子市役所の方のお話。
■オオブタクサ
観察会のスタート地点に、大きな葉を広げて生えている多数のオオブタクサについて岩瀬先生よりお話していただきました(写真−2)。オオブタクサは、初めクワモドキと名づけられていたそうですが、葉の形が似ているだけで、キク科の仲間です。一年草とは思えないほど高さがあり、人の背丈を越えるほどになります。最近は、ブタクサよりも多く見られるようになっており、生態系への影響も心配されているそうです。夏の終わりに飛ぶ花粉による、花粉症に悩まされる人も多いそうです。
岩瀬先生とオオブタクサ 岩瀬先生とオオブタクサ
(写真−2)オオブタクサ。道端でもよく見かける。
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■谷津に住むカエル
浅間先生にカエルについて、リアルな鳴き声の真似など交えながら紹介していただきました。
岡発戸の谷津は今4種類のカエルの鳴き声が聞こえます。
田の畦がビニールマルチに覆われたり水路がコンクリートで護岸されていないので、カエルが棲むには良好な環境が残されているようです。トウキョウダルマガエルは足に吸盤がないので、コンクリート護岸を登れません。またシュレーゲルアオガエルは畦の浅い穴に産卵します。
○シュレーゲルアオガエル(写真−3)→くりリーくりリーくりリー
○トウキョウダルマガエル(写真−4)→グゲゲゲケッグゲゲケッ……
○アマガエル(写真−5)→ブエーブエーブエー
○ウシガエル→ヴオオオォォォ…ヴオオオォォォ
それぞれ、このような鳴き声に聞こえます。
(撮影:浅間茂)
シュレーゲルアオガエル トウキョウダルマガエル アマガエル
(写真−3)シュレーゲルアオガエル (写真−4)トウキョウダルマガエル (写真−5)アマガエル
カエルの鳴き声がしたら近づいて姿を見てみましょう。ただし、振動には敏感なのでそっと近づくこと。音や光には鈍感なようです。また、雄は鳴くときにほっぺたや喉をふくらませます。
よく使われるところは黒ずむので、ひっくり返してほほのあたりが黒ければ雄、そうでなければ雌と見分けることができるそうです。

番外・ウシガエルの「スニーカー」
浅間先生からウシガエルのおもしろい行動を紹介していただきました。
縄張りを持てない雄が縄張りを持っている雄の近くに潜み、交尾のときに雌を先に横取りしてしまいます。このような行動をとる雄をスニーカー(※)と呼ぶそうです。
※スニーカー(sneaker):「こそこそと、忍び歩く、こっそり歩く」という意味。

■いろいろな緑に色づく斜面林
谷津の斜面に残されている林(斜面林)の様子を中安先生の説明を聞き、観察してみました(写真−6)。遠くからでも、樹冠の様子や色合いの違いで、ある程度は樹種がわかります。特に新緑の季節には樹種ごとの色合いの違いが識別の手掛りになります。
微妙な色の違いを言葉で表現するのはなかなか難しいのですが、そんなときに便利なのが色見本帳です。たくさんの種類がありますが、中安先生が用意されたものは「日本の伝統色」(大日本インキ化学)でした(写真−7)
円錐形の樹冠の「黒緑(くろみどり)」はスギ、ブロッコリーのようなもこもこした樹冠の「若苗色(わかなえいろ)」はスダジイです。スダジイの樹冠の色は若葉と雄花の色です。風が吹くと、コナラの葉の裏面の「白緑(びゃくろく)」が目を引きました。明るい緑が多い中で、タケの葉の渋い「鶸色(ひわいろ)」もかえって目立ちました。常緑広葉樹と同様にタケも今が葉の交代の時期にあたり、古い葉が黄葉して散っていきます。
同じ樹種でも季節を追ってその色合いは変わっていきます。次回はどんな様子になっているでしょうか。
春の斜面林 春の斜面林
(写真−6)春の斜面林
 
中安先生 中安先生
(写真−7) 緑にもいろいろな色の名前があるようです。
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■ご当地タンポポ
岡発戸の谷津田には、カントウタンポポが多く残っており観察会でもたくさん見つけることができました。セイヨウタンポポとの見分け方は総苞片(そうほうへん)の付き方だそうです。カントウタンポポは総苞外片が密着し(写真−8)、セイヨウタンポポは総苞外片が反り返っています(写真−9)。最近はどっちつかずの雑種型が増えているそうです(写真−10)

カントウタンポポ

セイヨウタンポポ

雑種のタンポポ
(写真−8)カントウタンポポ (写真−9) セイヨウタンポポ (写真−10)雑種のタンポポ
■ウグイスのさえずり
岡発戸のあちこちで「ホーホケキョ」というさえずりが聞こえてきました。この「ホーホケキョ」というのは、「聞きなし」(鳥のさえずりを意味のある日本語の言葉やフレーズに当てはめて覚えやすくしたもの)と言うそうです。古今和歌集には「梅の花 見にこそきつれ うぐひすの ひとくひとくと いとひしもをる(梅の花を見に来たのに、ウグイスが人が来た、人が来たと嫌がっている)」という歌が収録されているそうで、ウグイスは人が近づくと、「ケキョ、ケキョ、ケキョ…」と鳴きますが、これを昔の人は「人来(ヒトク)」と聞いていたと言われているそうです。そのほかに、「うーくい」と鳴き声が聞こえる説もあり、「うーくい」+「す」(鳥という意味の接尾語)でウグイスという名称になった、ともいわれているそうです。
また、ウグイスは主に茂みや藪の中で生活し、体も写真−11のように、地味で目立たない色をしています。そのため鳴き声で伝えるローカルコミュニケーションが発達しているようです。私たちには単なるさえずりにしか聞こえなくても、ウグイス同士では雌雄の求婚のやりとりだったり、警戒を促したり知らせたり、と想像以上の情報交換をしているようです。
「岡発戸のように、自然豊かな田んぼや斜面林では、藪が増えているので、ウグイスの棲息に適した環境が増加していることにも注目してほしいですね。」と唐沢先生はおっしゃいました。説明の間、あちこちの茂みから、盛んに鳴き声が聞こえていました。たくさん人が来たぞ!と迷惑がっていたのかもしれません……まあ、今回は大目に見てもらいましょうか。
ウグイスのさえずり ウグイスのさえずり
(写真−11)ウグイスのさえずり
(撮影:唐沢孝一)
 
解説中の唐沢孝一先生 解説中の唐沢孝一先生
熱心に先生のお話をメモにとる参加者の方々
■ホリニワトコアブラムシ
松本先生の説明を聞きながら、ニワトコの茎にびっしりとたくさんのホリニワトコアブラムシが観察できました(写真−12)。アブラムシの学名はAphis horii Takahashiといい、属名の次のhorii は種小名、Takahashi は命名者名です。学名から名づけ親は分類学者の高橋良一博士であり、種小名はこのアブラムシの研究に大きく貢献した堀松次博士に由来するものであることがわかります(アブラムシの学名については「アブラムシ入門図鑑」p89をご覧下さい)。したがって和名のホリはもちろん堀松次博士に由来するものです。
南関東地方では周年ニワトコで生活します。1年に1度、晩秋にだけ卵を生み、他の季節は交尾せず、胎生で子虫を産みます。今の季節では2週間ほどで成虫になるので、あっという間に増えるそうです。
説明の中で「からだは青緑色をしている。」といわれていましたが、観察中メモ帳の上に飛んできたアブラムシをみたところ本当に青緑色をしていました。また、ホリニワトコアブラムシはアリがつくった蟻道(ぎどう)の中で生活もできるそうです(詳細は「アブラムシ入門図鑑」p116 をご覧下さい)
ホリニワトコアブラムシのコロニー
(写真−12)ホリニワトコアブラムシのコロニー
ホリニワトコアブラムシ ホリニワトコアブラムシ
「アブラムシ入門図鑑」より抜粋
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■看板の裏をのぞいてみよう
ここで、山崎先生に自然観察の方法の一つを教えていただきました。
公園や街路樹の樹木によくかかっているネーム看板。岡発戸アカメガシワの看板(写真−13)をひっくり返して見てみると…。コカマキリの茶色い卵のうが産みつけられていました(写真−14)。こんなところで発見できるとはおもしろいですね。このように看板の裏や、ブロックの下にはいろいろな生き物が隠れているそうなので、チェックしてみてください。
コカマキリは林床に生息しているので、落ち葉と同じ褐色です。
樹木の看板 樹木の看板
(写真−13)樹木の看板
コカマキリ卵のう コカマキリ卵のう
(写真−14)裏返してみると茶色のコカマキリ卵のうが。
   
コカマキリ コカマキリ
コカマキリの成虫:腕にある斑紋が特徴
5月のシダ植物を観察してみよう。
シダ植物について、村田先生に紹介していただきました。5月のベニシダは葉そのものの色が赤味がかっていました(写真−15)。こちらが成長すると、葉は緑色になりますが、葉の裏の包膜の赤味は残っています(写真−16)。夏には赤味はなくなるそうです。観察する時期によって、赤味を帯びる部分が変化するそうです。常緑樹の多い場所にベニシダは多く生育するそうです。
ベニシダ ベニシダ
(写真−15)今回の観察会でのベニシダ
葉が赤味を帯びている。
胞子のう群 胞子のう群
(写真−16)ベニシダの若い胞子のう群
(「野外ハンドブック シダ植物」より)
次に、シダ植物の胞子は葉の裏についているというイメージが強かったのですが、そうではないシダ植物を2種類紹介していただきました。ゼンマイもその一つ。葉は栄養葉と胞子葉があるそうです。栄養葉の若芽はよく若芽を食用としていただく部分です。5月の栄養葉はもう渦巻状ではなく、立派に葉が展開していました。胞子葉は上部に胞子のうをつける葉。こちらは胞子を放出するとすぐに枯れて茶色になるそうです。コウヤワラビも同様に栄養葉と胞子葉があるシダ植物です。この時期には前の年の秋に生じた胞子葉が残っていました。シダ植物にも、時期や種類によっていろいろな違いがあると実感しました(詳細は「野外ハンドブック シダ植物」p58, 80参照)
■キジの雌雄
あちこちで、「ケンケーン」という渋い鳴き声が響いてきました。これは、キジの雄が縄張りを主張している鳴き声だそうです。キジの鳴き声は「ケケン」「キキン」と聞きなしてきたそうで、「キキン」→「キジ」になったといわれています。昔は、キジは地震を予知して「ケケン」と鳴くと言われ、江戸城をはじめ各地の城内で保護されてきたそうです。雄は、写真−17のように、カラフルな色彩です。特に繁殖期には、頭部の赤いとさかが鮮やかで、一段と大きくなるそうです(→「野鳥博士入門」p62 に写真があります)。田んぼの畦や畑など、見通しのよい草地でくらすため、雌に求愛するために色彩が発達したものと考えられているそうで、先に紹介した藪でくらすウグイスとは、対照的です。他方、抱卵や雛をひきつれて子育てする雌親の方は、とても地味な色彩です(写真−18)。最後このキジの解説をしている、ちょうどその時に、畑の上に雄が出現。観察会に協力してくれたキジに感謝です。
(岡発戸の田の畦で撮影:唐沢孝一)

キジの雄

キジの雄
(写真−17)キジの雄

キジの雌

キジの雌
(写真−18)キジの雌
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■クリタマバチの虫コブ
クリの木を観察してみると所々に玉のようなものがありました。これはクリタマバチの「虫コブ」というそうです。虫コブとは、昆虫が子供を育てる育児室として植物の一部を肥大化させたものだそうです。虫コブをつくる昆虫の中でも害虫として問題となっているクリタマバチ。ひどいときはクリの木が全滅してしまうのだとか。谷津でも数年前はクリノの木がなくなりそうなほどクリタマバチが繁殖していましたが、今年はクリタマバチの天敵といわれている、チュウゴクオナガコバチの台頭で数が少なくなりつつあるそうです。
田仲先生 田仲先生
虫コブを探す田仲先生と参加者の皆さん
■ヤマトシリアゲ
ヤマトシリアゲについて鈴木信夫先生に、以下執筆していただきました。

雄のお尻の先はハサミ状で、それを上にあげています。だから、シリアゲムシと呼ばれています。「シリアゲムシは、何の仲間ですか」とよく聞かれて、答えに困ります。完全変態昆虫の中でも、かなり原始的と考えられているシリアゲムシ(写真−19)は、「シリアゲムシ」の仲間です。
岡発戸で見られるヤマトシリアゲは、北海道南部、本州、四国、九州に分布し、シリアゲムシの仲間ではもっとも普通種といえます。年2回現れて、林縁部などによくいますが、昔からの自然が残っているような場所でしかお目にかかれません。
雄は、尾のハサミで雌の腹部をつかんで交尾姿勢に入ります。雄の腹部第3節の背板後縁には、後方に向かった出っ張り(写真−19の矢印部分)があります。交尾の際に、雄はその出っ張りで相手の翅をはさんで、雌の体を固定します。

ヤマトシリアゲ ヤマトシリアゲ ヤマトシリアゲ ヤマトシリアゲ
(写真−19)ヤマトシリアゲの交尾(右がオス、左の餌を食べているのがメス)
(写真−19の矢印部分)オスの腹部背面には、交尾のときにメスの翅を押さえる部分があります。
(撮影:鈴木信夫)
当日は雨にもかかわらずたくさんの方々に参加していただきました。雨の中の観察会もなかなか良いものだと思いました。自然観察大学の講師の先生方、いつもおもしろく興味深いお話をありがとうございました。
また、後援という形で多大なご協力を頂きました我孫子市役所の方々、谷津守人の皆さん、そして一緒に観察を楽しんでくださった参加者の皆さん、ありがとうございました。
次回の観察会は6月21日(日)です。たくさんの生き物たちと出会えるといいですね!
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